S:黙考の菌類 ルミネイター
宇宙は過酷だ……。厚い大気の層によって減じられるはずの有害な光線が降り注ぎ、我らが星の生物の多くが、生存できないに違いない。だが、菌類は時として、驚くべき強さを見せることがある。月面の過酷な環境であろうが、菌類であれば生き抜き、そして進化の道をたどることも可能であろう。かくして、進化を重ねていけば、やがて思考能力さえ獲得するかもしれない。それが、ワタシが考案した黙考の菌類「ルミネイター」だ!フフフ……思考能力があるのであれば、独自の意思伝達手段を発達させ、共生関係を構築するに違いない!進化菌類同志で、互いに危険を警告し合い生存率を高めるのさ!
~ナッツクランの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
宇宙空間はどういう影響をもたらすか不明な未知の物質や大気というフィルターを通さない様々な光線で満ち溢れている。そんな環境に惑星の環境に適合した形で完成した生物ではなく、未だその末が分からない未完成であるが故にどんな環境にも適合できる微生物や菌類が触れたら一体どうなるのだろう。それを体現したのがルイミネイターだ。
ルイミネイターの元となる菌類を月面に送り付けたのはシャーレアンでも異端児扱いされた生物学者だった。彼は研究者の能力としては下の下で周囲の研究者からは見下されているような存在であった。その理由はその人間性や応力以外にもいくつもあるのだが、なかでも突拍子のないことをやらかしたり、根拠不明な思い込みにも似た独自の理論で様々な研究や実験を行うことで「出来損ないのマッドサイエンティスト」として有名な人物だった。
彼は月に送り込んだ菌類が宇宙に漂う未知の物質や光線に触れることで独自の進化を遂げ、いずれは思考能力を獲得するのではないかと考えた。思考能力が備われば同種との異種の伝達するようになり生存本能から共生関係を結ぶはずとそう考えた。
そもそも菌類同志が共生関係を結んでどんな価値があるのかは分からないかったが、おそらく彼にも分かっていないだろう。彼とってそのこと自体の評価やその先にどんな価値が生まれるのかなどどうでもいいことなのだ。子供のようにはしゃぐ彼は菌類とお友達になる童話のような夢物語を延々と帰化されたせいで、検証のために月に向かう彼に同行したその短い時間でそのことはよく伝わってきた。
そして彼の研究は半分は成功していた。月の嘆きの海に到着し、探索を初めて3日目。独自の進化を遂げたその巨大な菌類を発見した・・・といっても蜘蛛のような足を備えたそれはまるで昆虫のように見えた。まだ動物や魔物の域を出ないが確かに思考能力を備えているようだった。だがその身に着けた意思伝達能力は共生のために使われるとした彼のお花畑な推論は儚く散った。まぁ、生物の歴史や文化をみれば当然と言えば当然である。強いものが弱いものを隷属させ、道具として使い、時には自分を護るための盾として使う。かれが想い描いていたような童話のような平和な環境はそこにはなかったし、少なくてもあたしはとてもじゃないが仲良くしたい気分にはなれなかった。
「で…、どうする?」
相方が振り返りながら聞いた。その巨大な昆虫状に進化した菌類は明らかにこちらの存在に気付き、背中に生えたクリスタル状の棘をカチカチ鳴らし威嚇しながらジリジリ間合いを計っていた。
「どうするったって…ねぇ」
あたしはチラっと彼の方を見たが目に見えて落胆して声を出す元気もない感じである。あたしは視線を相方に戻して言った。
「菌類の苗床にされるなんて絶対お断り」
だが、流石にこのクラスの魔物に進化されてはあたし達だけでは手に負えない。相方は普段使用しているのとは違う広域連絡用のリンクシェルを取り出すとこの地域に散らばるハンターや冒険者に応援を要請した。